TRAMPOLINE GIRL

ブーン系小説作者のサイト。雑記を中心に短編小説などもたまに書きます。

【感想文】ラノブンピック作品

ラノブンピック、無事終了して良かったですね。

祭が終わったという事で前から宣言していた通り、感想(のような何か)を書きました。自分なりにしっかりと書いてますが、あくまで『感想』なのでそこらへんよろしくお願いします。批評なんかは全然できないので……。

とりあえず今回は自分が投票した7作品分の感想を書きます。

この記事はネタバレを含みます。お気を付けください。

 

 

MVP. そして、永訣の朝をこえる

単純に面白かったです。

「愛するものが死んだ時には、自殺しなきゃあなりません。愛するものが死んだ時には、それより他に、方法がない」冒頭の中原中也の詩の一節。そして屋上から始まる物語。不穏な臭いがプンプンしますね。ここで死を印象付ける事で物語の雰囲気を掴ませることに成功しています。もうこの時点で「あ、この話面白いな」と思っちゃいました。

この物語では「雪」がキーとして出てきますが、元ネタである「永訣の朝」でも妹が「あめゆじゅとてちてけんじゃ」と「雪」をもとめているんですね。そして宮沢賢治は曲がった鉄砲玉のように飛び出していく。このシーン、見覚えありますよね。トソンが最後にミセリにみぞれのアイスを買いに走った場面です。「Ora Orade Shitori egumo(わたしは、わたしで、ひとりで 逝きます)」も自殺を思いとどまらせる重要な言葉になっていることから、タイトルの通り、この物語はまさしく「永訣の朝」の物語だという事がよく分かります。こういった詩の内容を違和感無く自然に溶け込ませて物語が出来ているのはいいですね。やけに元ネタを強調しすぎて破綻することも珍しくないので。「春日狂想」も本文での引用が少ないながらも、冒頭のパンチラインとして、そしてミセリの決意にも繋がる詩として機能していました。やっぱり読ませる文を作る人は構成と魅せ方が上手いですね。

地の文少な目であっさりしてますが、その分読みやすさと物語の作りで完成度が非常に高い作品です。後述のThree dotやハローグッバイも、もちろん完成度は高いのですが、今回は詩を上手く溶け込まさせて新たな物語を作り出した、この作品にMVPを投票しました。良かったです。

ではみなさん、喜び過ぎず悲しみ過ぎず、テンポ正しく、握手をしましょう。


1. スピカを沈めるようです

男は思い続けていた。十数年前に亡くなった恋人の事を。これは、再び男が歩き始めるまでのストーリー……。なんて書くとよくある物語に聞こえるけれど、この「スピカを沈める」はそう簡単に終わらせてくれない。むしろそこからが本当のオチって感じがあります。起承転結の結の部分でしっかり物語として〆たうえでゾッとくるようなオチを持ってくるのは上手いなと感心しながら読んでました。上手いとばっかり思ってますね。すみません。

男の恋は名前を付けて保存、女の恋は上書き保存なんて言いますが、この物語は両者共に上書きされる事のない初恋がテーマになってますね。初恋の思い出は切なく甘酸っぱいものです。けれどそれで終わらずに、色々とあって執着した2人が主人公というのがまたいいです。両者とも歪みなく純粋に愛し続けていたという点では変わらないんですよね。ただ、ちょっとツンは執着の方向性がヤバいですけど……。あの付き合った2人は幸せになるのでしょうか。個人的にはツンがヤンデレ化しそうで怖いですね。ブーンに一目惚れで、幻想を抱いたまま付き合い始めるなんて、めっちゃフラグ立ってるじゃないですか。普通に怖いです。

結末の怖さばかり書いてしまいましたが、ブーンが初恋の恋人を喪って、その記憶の執着から離れていくという物語としても面白いです。「永訣の朝」と同じく重厚な地の文はありませんが、程よく読みやすいお話だと思いました。


2. ハハ ロ -ロ)ハ ハロー//グッバイのようです (^ω^ )

全部で63レスとは思えないほど濃い物語でした。

随所にうかがえる文章力の高さが文章の濃度をさらに上げていますね。キャラの見せ方もしっかりしているし、行動原理に無理がない。しっかりと一本筋で物語が練られているのだなと感心しました。そして何よりラストの展開でメタ要素を使っているのが面白かったです。「さようならハローさん」の回収の仕方も違和感無く物語の中に組み込まれていました。個人的にあの魅せ方は好きです。ちなみにタイトルのHello,Goodbyeはビートルズの楽曲にかけているのでしょうかね? 単純に「さようならハローさん」の意かな。

何はともあれ素晴らしいのは設定ですよね。破綻しない程度に意外性のある要素を詰め込みまくって徐々にそれを開放していくのは、もう読んでいる方としては楽しい事この上ないし、書いている方も楽しくてたまらなかったんじゃないでしょうか。それくらい色んな要素が詰め込まれている物語なので、ネタバレ不可でこの物語の感想を書くとなったら大分書けないことが多くなりそうで大変だと思います。

この終わり方は大団円のハッピーエンドとは言えないと思う。なんせ一回世界は滅んでいるし、何よりブーンは死んでしまっている。加えてこれまでの記憶も全て消された状態で別の世界線へ飛ばされてやり直している訳だから。けれどもドクオが以前の世界線と違って100を救うために1を捨てる人間ではなく、101全てを救う人間になった事で、救われた2人は引き裂かれることもなく、慈愛に満ちた生活を送っていくことでしょう。救いのあるラストで本当に良かったです。


3. ∵ Three dot ∴

ロードムービーと言っていいのかな? そんな洋画を見てるような感覚になる作品。

文章力とかそう言うのじゃなくて物語の構成と設定を使って全力で殴ってくる話ですね。あとこの作品だけは作者が誰か一発で分かりましたね。自分の好みを存分に捻り出して作ってる物語、本当に好きだなぁ。

物語自体は一本道で目標まで突き進んでいくという感じのストーリーですが、主人公達やら道中出てくるキャラの設定がいいですよね。皆生き生きしていて読んでて楽しい。時折見せるギャグテイストのテンポのいい掛け合いもいいですね。「面白いな!」と思える要素をキッチリ詰め込んで、こういう会話でも魅せていくのは単純に上手いなあと思っちゃいますね。この物語に関しては考察するとか、こう魅せたかったんじゃないか! なんて考えるまでもなくしっかりと提示してくれる、まさしくハリウッド的な作品なので、余計な事は書かずただ読め! とだけ言っておきましょう。最後の最後に次回作への引きを作っていくのもニクいというか映画的で良かったです。


4. 葬列が続く

カラーコンタクトによって彩られた赤紫色の瞳が巻き起こす一騒動。

狂気が狂気を呼ぶとはこの事なのかなと思いました。徹底的に瞳に魅入られて宦官になったブーンは当然のように狂人と言えるわけですが、くるうも結構クレイジーですよね。例のブツを見て「凄いものもらっちゃった」と「ひどく興奮して」るわけですよ。ヒッキーのようになるのが普通だと思うんですが、彼女は何回も手紙を読み直せるくらいには落ち着いてる訳なんですよね。そして極めつけにはツンにすべての出来事を伝えてブーンを消したわけですよ。恐ろしくないですか? 普通に彼女もちょっとイッちゃってる側の人間ですよね。これはヒッキーが言うところの「決定的な変質」のせいなのかも知れませんが。ツンもツンで長い付き合いの人間をあっさり殺してますからね。これは幼いころからの恋心を裏切ったというか、そういう面もあるので同じように言えませんが、「殺す」という選択肢を取れるのは結構怖いですよ。文章中でも触れられていますが、これも皆あの赤紫色の瞳に魅入られた結果なのでしょうか。

ともあれ、人が変化していく事をその人の「死」と表現するのは面白い例えだなと思いながら読みました。その「死」を悼む人が続いていく、それが「葬列が続く」事なのだと締めくくられていますが、この締めの文章が個人的にはとても印象的でした。正直これだけで投票したと言ってもいいです。遅刻組なのが本当にもったいない作品でした。短編かつスラスラと読ませる文章なので読んでいない方は是非とも読んでいただきたいです。


5. 川 ゚ -゚)フェアウェルキスのようです

最初に読んでて思ったのは、凄い繊細な文章を書く人だなという事です。特にドクオは男性型ロボットなのだと思いますが、読んでいると凄く女性的に感じるんですよね。これが悪いとかそういう意味では無く、このドクオというロボットのキーにもなっている感情、心の機敏な動きみたいなものを上手く表現できているからだと思います。こういった細やかな描写がこの作者の特徴ですね。あと、時折放り込まれる詩的な表現。これも素敵でした。文章が彩られ、とてもキラキラして見えました。

物語についてですが、豊かな感情を持ったロボットという存在が面白かったですね。人のように泣き笑い、苦しんだり悲しんだりする。そのせいで辛い思いをしたり、ロボット特有の苦悩みたいなものも表現されていて、キャラ作りが上手いなと思いました。そしてなによりタイトル回収の仕方が良かった。「お別れのキス」で「さよなら」するなんて、なんてロマンチックなんだろうと思っちゃいましたね。また唐突にも思えたハイン博士とのキスの意味も分かって、なるほどなと感じてしまいました。

初作品という事で基本作法などで色々粗さは見え隠れするものの、物語としては最高に素敵なお話でした。あと前述した詩的な表現が作者の特徴を際立たせていて良いですね。このままの調子で是非とも2作目が見たいです。


6. 独白のようです

 この話は難しい。なんせヒントが全然無い。

多分、鬱田ドクオという名の患者を妄想した統合失調症の患者がこの作中に出てくる医者で、最後に鉄扉を開けたのが本物の医者なのだろうか?

>「心配すんなよ。俺と先生は最初から一つなんだ。前に話してくれたよな。俺たちは、バケツに入れられた水と砂なんかじゃない。水そのものだ」

このセリフからはそうとしか読み取れない。読解力不足かもしれない。難しい。同じ内容の経過観察日記を平然と眺めている事から、個人的にはそうだと思っているのだが。もしかしてドクオは誰かの代わりにこうなっていて、そしてボタンを押すことで役割を交代したとか。そういう捉え方もできる程度には分からない。誰か見解を教えてくれませんか? 

ともあれ、作品と文章の雰囲気だけでも投票したくなる作品でした。考察もはかどるし、こういう作品を書ける方は尊敬します。

 

以上、感想(のような何か)でした。もっと深掘りして書けと言われれば出来ないこともないですが、それは他の方にお任せします。少なくとも自分にはこれが精一杯でした……。

小説は書けるけど、感想はまた違って難しいものですね!

何かありましたらご連絡ください。それでは。