('A`)夢を買う人のようです
【最初に】
昔書いた文章を見直していたところ、総合に投下したと思われる作品を発見しました。まとめなんか当然されていないので、ここで保管しておきます。発想はいいと思うので、いつかコレを元ネタに物語を書いてみたいですね。
世の中は憂鬱で溢れている。
それは結構な頻度で体感する羽目になるし、理不尽なんていうのは案外身近だ。
僕は今日バイトをクビになった。
と、いうと何かやらかしたように聞こえるので言い直す。
僕のバイト先が潰れた。
一大学生の身としては店舗の経営なんてこれっぽっちも分からないが、常に定数の客を捌いていたあの店ですら潰される世界というのは怖い。
最後に店長が「明日から職探しか」と死んだ目でポツリと呟いていた姿にあまりの哀愁を感じて、何だか僕まで悲しくなった。
僕は気楽な身だが、彼には妻も子供もいるのだ。
その一言がやけに重く感じて仕方がなかった。
こうしてまた世界にため息が吐き出されて、憂鬱が溜まっていくんだろう。
その淀んだ空気はどうなって、どこへ消えていくのか。
もしかしたらそれはどうにもならなくて、世界は沈んだオーラに包まれているのかもしれない。
でも今の僕にとっては73億人の憂鬱の行き先よりも目先の仕事のほうが大事だ。
俗に言う苦学生である僕は常にバイトをしないと飯を食うにも困ってしまう。
大学生協のバイト掲示板を眺めながら、何だか大きくため息をつく。
こうしてまた憂鬱が世の中に溜まるのだ。
('A`)「時給800円……うーん……スーパーの品出し……しんどい……」
ぶつぶつと呟きながら疎らに求人が張られた掲示板を眺める。
あまり使っている人を見かけないこの場所だが、フリーペーパーに掲載しているバイトなんかよりよっぽど割のいいバイトが乗っていたりするのがいい所だ。
舐めまわすようにじっくりと求人を見ていると、酷く奇妙なモノを見つけた。
('A`)「なんだこれ?」
画鋲でピン止めされたそれは、それほど大きくない掲示板のど真ん中に堂々と座していた。
僕が『奇妙』と言ったのはその求人の紙と内容である。
大学ノートを適当に千切ったようなそれには
「夢を買うお仕事です」
と一言だけ書いてあり、その下には添えられるように携帯電話の番号が書かれていた。
またセンチメンタルと言うか、ロマンチックな一言である。
まず真っ先に僕は誰がこんなしょうもないイタズラをしたんだろうと思った。
しかし同時に僕はこのイタズラ主に感心した。
('A`)「どこかにこっそりと貼りつければいいのに、やけに堂々としたやつだ」
仮にも学生会に管理されているこの掲示板の、しかもど真ん中に貼りつける度胸。
俄然興味が湧いてきた僕はさっそく電話してやることにした。
そのままイタズラの紙を貼りつけたままでいるのも癪なので、ペッと貼られていた切れ端をむしり取る。
そして着ていたジャケットのポケットへとそれを突っ込むと、足早にその場を立ち去った。
イタズラの主であると思われるのも、それはそれで癪である。
酷くつまらない講義に耐えた後、家に帰った僕は早速携帯電話を取り出して例の紙に書かれた番号を押す。
久々の操作で少し手間取りながらも、無事に全て打ち終えると早速通話のアイコンをタップした。
プ・プ・プと電子音が鳴った後、一瞬の沈黙。
やはりダメか? そう思った直後にプルルと呼び出し音が聴こえた。
この一連の動作の間、僕は色々と考えていた。
勢いでかけてみたは良いが、この繋がる先は本物なんだろうか? とか。
万が一繋がってもその先がヤクザみたいなアウトローだったらどうしよう? とか。
でも結局のところワクワク感の方が上回って、そんな事はもうどうでもよくなっている自分がいた。
そんな感じで想像を巡らせていると、呼び出し音が途切れた。電話がつながる。
『もしもし……』
電話先の人物の声は落ち着いた感じの男性のものだった。
低めの若干しゃがれた声が特徴的だが、年齢までは察することができない。
('A`)「あ、もしもし、求人を大学生協で拝見したんですが」
『大学生協……? あー、はい、分かりました』
『いつなら都合がいいですか……はい、じゃあ一応履歴書持ってきてもらって……』
『場所分かりますか? 大通りの……』
一通りの事務的な会話を終えて電話を切った僕は、率直に言って非常にガッカリしている。
なんだなんだ、とても人を舐めているような広告の出し方をしておいてこの平々凡々とした対応は。
無駄に膨らませていた期待はあっさりと裏切られてしまった。
世の中そんなにイレギュラーは起こらないよという事なんだろう。
しかし応募してしまったからには一応筋を通さなければなるまい。
僕は乱雑に積まれた書籍の山の間に挟まれていた未開封の履歴書を取り出し、制作にとりかかることにした。
………
……
…
僕がこの街にやってきたのは去年の春だ。
ちょっとした田舎の高校からこの都会の大学に入学するため、ノコノコと上京してきた。
やってきた直後は、あまりに地元と違う光景や場所に感動しつつはしゃいでいたが、それも一ヶ月で飽きてしまった。
何より親に無理を言って上京してきた僕は遊ぶ金が無いという致命的な問題があったからだ。
とにかくバイトに講義にと駆けずり回り、そして入った写真サークルで適度に活動していたら、そのまま1年が過ぎてしまった。
ある意味求人に書いてあるような『夢』なんかとは遠くかけ離れた生活を送ってきた。
……いや、正確に言えば、『夢』なんて持たないようにしているのだ。
僕は、このまま社会に出てまた働きずくめの毎日を送るんだろうなと、何となく今から思っている。
('A`)「えっと……あのドトールから右に曲がって……」
電話口に伝えられた場所をメモした紙を見つめながら、目的の場所目指して僕は大通りを歩いていた。
この1年で人ごみの中で歩くのにも大分慣れた。
来た直後は立っていても歩く人にぶつかっていた僕だが、今では俯き加減で歩いても余裕である。
人間は適応の生き物であるとつくづく思う。
2、3度大通りを往復してようやくたどり着くことの出来た先は小さな2階建てのビルで、入口には古びたドア、隣には控えめなガラスのショーウィンドウがあった。
年季の入った塗装の禿げ方と真鍮の具合がヴィンテージな雰囲気を実に引き立てていて、一見すると老舗の喫茶店であるとか、そのように見せている雑貨屋のそれに見える。
ショーウィンドウには可愛らしい陶器製の小物やガラスで出来ている猫の置物が綺麗に陳列されていた。
なんてことの無い、ただ古い風貌のビルではあったが、何となく異様な雰囲気が漂っているような気がするのは緊張のせいだろうか。
僕は何度か手元に持ったメモを見返し、この場所で間違いない事を改めて確認すると意を決してドアを開けた。
ギギィと扉が鳴き、静かな部屋に響く。意外と中はモノがあり、陳列棚の上にはギッシリと、そしてキッチリと多種多様なモノが並べられている。
そしてその入口の正面にあるレジカウンターの中では店主と思われる壮年の男性が、これまた年季の入った木製の椅子にゆったりと腰かけていた。
(´・ω・`)「いらっしゃい」
店に入ってきた僕に気がついたその男性は顔を向けると、読んでいた新聞を畳んで立ち上がった。木製の床が軋む音が響く。
('A`)「あ、あの、すいません、僕バイトの面接で……」
(´・ω・`)「ああ、お待ちしていましたよ」
そう言ってその店主であろう男はカウンタードアを開け、「どうぞ」と手で招く。
軽く会釈をして僕はそのドアを通り、男の後についていく。
入ってきたときは分からなかったが、意外と奥の方は結構スペースがあった。
少し大きめでシンプルな木製の丸テーブルと、それを囲むように3脚椅子が置いてあった。
(´・ω・`)「ツンちゃん、お茶入れてくれないかい」
そのまたそばで片付けをしていた女性が振り向く。
綺麗な金色の巻き髪が顔と一緒に揺れた。
ξ゚⊿゚)ξ「アールグレイ切らしてますのでダージリンでもいいですか?」
(´・ω・`)「大丈夫、悪いね」
返答代わりに軽くうなずいた彼女は手を軽く払うとキッチンへと向かった。
それを見送った店主は座るよう僕に促すと上手の椅子に座った。それに続くように僕も近くの椅子に腰かけた。
(´・ω・`)「履歴書もらえるかな?」
('A`)「はい、これです」
履歴書を受け取った男はそれに目を通し始めた。クセなのか、右手をあごに当てて脚を組んでいた。
思ったよりマジマジと眺めているものだから、何だか適当に書いたことを思い出して恥ずかしくなってくる。
ξ゚⊿゚)ξ「どうぞ」
(;'A`)「あ、ありがとうございます」
(´・ω・`)
お茶が運ばれてきても全く微動だにせずじっくりと読む姿を見ていると、
何か変な事を書いてしまったのだろうかとだんだん不安になってきた。
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫ですよ」
(;'A`)「えっ?」
脇でこちらの方を眺めていた彼女が口を開く。
そわそわしている僕の姿を見かねたのだろうか。
ξ゚⊿゚)ξ「単純に聞くことに困ってるだけですから」
(;´・ω・`)「あ、こら、言うな!」
彼女の声に反応してようやく顔を上げた店主は、顔を少し赤くしていた。多分図星だったのだろう。
大きく息を吐き出すと机に履歴書を置いて、代わりにお茶を口へ運んでいた。
(´・ω・`)「全く、少しくらい格好つけさせてくれよ」
ξ゚⊿゚)ξ「余計な時間を使う必要なんて無いじゃないですか」
(´・ω・`)「そうだけどさ……」
ξ゚⊿゚)ξ「時間は有限なんですから」
(;'A`)「あの、僕は全然……」
ξ゚⊿゚)ξ「ダメよ」
(;'A`)「えっ」
ξ゚⊿゚)ξ「無駄に時間を取られたら怒るべきなのよ、その数秒でいくらでも可能性を積めるんだから」
(´・ω・`)「やれやれ、その通りだよ」
そう言って「すまなかった」と頭を下げる店主の姿に僕は先ほどよりも困惑すると同時に慌てた。
これから雇われるかもしれない主にこんな事をさせるなんてとんでもない。
(´・ω・`)「急に忙しくなって、猫の手も借りたい状況でね」
(´・ω・`)「彼女も最近雇ったんだ、新人のクセにやけに風格がね……」
ξ゚⊿゚)ξ「店長」
(´・ω・`)「ああゴメン、また時間を喰ってしまった」
(´・ω・`)「君すぐ来れる? なるべく多く入ってほしいけど学生だし無理は言わないけど」
('A`)「大丈夫です、むしろ稼ぎたいくらいなので多めに入れていただいて」
(´・ω・`)「グッドだ。決まりだな」
(´・ω・`)「僕の名前は垂眉ショボン、ショボンと呼んでくれ」
そう言って差し出された手を握り返す。
珍しい名前だなと思って顔を改めて見ると青い瞳が反射して、なるほどなと勝手に納得した。
(´・ω・`)「で、こちらが教育係になるツンちゃん」
ξ゚⊿゚)ξ「津田 怜です、よろしくお願いします」
(´・ω・`)「彼女も新人だが、仕事は大体覚えているから安心して聞くといい」
('A`)「よろしくお願いします」
そう言って互いに軽く会釈を交わす。
彼女の顔も改めてみると、ブラウンの大きな瞳に長いまつ毛、そして綺麗に染められた金色の髪。
彼女もハーフか何かに見えてくる。まるで僕と同じ人種とは思えない。
(´・ω・`)「それにしても何でこんなとこに応募してきたんだい」
('A`)「いやぁ、興味を惹かれちゃって」
(´・ω・`)「むしろ胡散臭かったんじゃないか」
('A`)「それよりむしろ求人の出し方に興味が湧きましたね」
(´・ω・`)「と、いうと?」
('A`)「大学の掲示板にノートの切れ端をバーンと貼りつけてたじゃないですか」
僕の言葉を聞いた瞬間、ショボンさんの目が大きく見開いた。
そしてそれと同時にすごい勢いでツンさんの方を振り向く。
(;´・ω・`)「え……ツンちゃん、何したの……」
顔を向けられた瞬間に顔を逸らし、明後日の方向を見ながら鼻歌を歌って誤魔化そうとしているツンさん。
やがてしつこくジッと見てくるショボンさんに根負けしたのか、一瞬ショボンさんの顔を見つめたが、すぐに視線を下にそらした。
ξ゚⊿゚)ξ「……だってお願いしても貼ってくれなかったんだもん」
(´・ω・`)「だったらそんな無理して貼らなくても……」
ξ#゚⊿゚)ξ「だって管理委員会の奴ら提出した求人掲示申請書見た瞬間却下したんですよ!!」
ξ#゚⊿゚)ξ「腹立ってしょうがなくて! だから認められないなら貼ってやろうと!!」
話しているうちにさらに怒りがこみ上げてきたのか、仄かに赤くしていた顔を更に赤くして声もだんだんと大きくなり、
ヒートアップした彼女の不満は中々止まず、ショボンさんがなんとか彼女の怒りを鎮めたのはおおよそ1時間後くらいだった。
(;´・ω・`)「ゴ、ゴホン」
ようやく落ち着いたのを確認したところで、ショボンさんが一つ咳ばらいをした。
(´・ω・`)「じゃあ仕事を説明してもいいかな?」
(;'A`)「はい」
ようやく、ようやくである。
『夢を買う』などと言う、素っ頓狂で意味の分からない仕事の中身がようやく分かるのだ。
(´・ω・`)「求人でご存知の通り……僕たちはね……夢を買うんだ」
('A`)「夢って……具体的に何なんですか」
(´・ω・`)「君は何かになりたい、何かを成し遂げたいと思ったことは無いかい?」
('A`)「……そりゃあ、ありますよ……」
(´・ω・`)「そう、それさ」
('A`)「?」
(´・ω・`)「そういった夢はね……いくつになっても潰えないんだ」
(´・ω・`)「君が子供の頃に抱いたような夢を、未だに強く持ち続けている人もいるんだ」
('A`)「でも、現実的に考えて無理ってやつもあるじゃないですか」
('A`)「例えば、今の歳からプロスポーツ選手を目指そうと思ったってそいつは……」
(´・ω・`)「そう、それだよ」
('A`)「それ?」
(´・ω・`)「今の今まで……なりたかった、叶えたかった夢」
(´・ω・`)「それを今までかけた時間を含めて、買うのさ」
夢を買うっていうのは比喩的な意味では無く、どうやら本当に買うらしい。
(´・ω・`)「意外にそういう人は多くてね……ほら、見てごらん、これが夢のカケラさ」
そう言って手に持った小瓶を揺らすショボンさん。
中には半透明の色付きガラスの破片のようなものが入っていて、それがカラカラと音を立てて瓶と共に揺れた。
('A`)「……!? ど、どうやって取り出してるんですか……?」
ξ゚⊿゚)ξ「これを使うのよ」
そう言って現れた彼女が僕の前に置いたのは、ティーカップに入れられた紅茶だった。
琥珀色の透明な液体がカップの中で静かに揺れていた。湯気に乗った茶葉の良い香りが漂っている。
これが紅茶以外の何物なんだろうか??
ξ゚⊿゚)ξ「もちろん、これ単品じゃタダの紅茶……」
ξ゚⊿゚)ξ「これにこの薬を2,3滴垂らすの」
先ほどショボンさんが持っていた小瓶より細かい装飾を加えられたモノをツンさんは持っていた。
中に入ってるのは限りなく薄い水色の液体で、一見すると風邪薬のシロップのようだった。
話を聞くたび脳みそが揺さぶられ、混濁していくのが分かる。
悪い冗談をいい大人たちが言ってるんじゃないか? そんな事まで考え始める。
ξ゚⊿゚)ξ「これを飲んだ人は……みんなそれぞれ思い出を語りだすわ」
ξ゚⊿゚)ξ「そしてそれを全て吐き出し終えたときに一気にガッ!っと……」
(´・ω・`)「僕がその思い出を固めるんだ」
('A`)「ど……どうやってですか?」
(´-ω・`)「それは企業秘密」
(´・ω・`)「……そして吐き出した彼らの夢は綺麗サッパリ無くなる……諦めがスッパリつくって事だ」
(´・ω・`)「僕らはそれを検品して、サイズや綺麗さでそれを買い取るってわけさ」
ξ゚⊿゚)ξ「固めた奴を検品して選別するのが私たちの役目ね」
なるほど、まるで掃き溜めの宝石商だな。
そんな思いと同時に、素朴な疑問が浮かぶ。
('A`)「あの……質問なんですけど……」
(´・ω・`)「何かな?」
('A`)「他人の夢って……そんなに需要があるんでしょうか?」
('A`)「確かに諦めきれなかった夢を吐き出してスッパリと諦めるのは良い事だと思うんです」
('A`)「でもこれって……商売になるんでしょうか」
ショボンさんは苦笑いを浮かべながら頷いた。
ああ、なるんだ。
(´^ω^`)「ごもっともな疑問だよね、それは」
ξ゚⊿゚)ξ「そうですね、私も入るまで正直言って懐疑的でしたし」
('A`)「タダのキラキラしてるだけの石じゃないって事……なんですよね」
(´・ω・`)「そう。これはタダの恨み節や後悔を固めただけの石じゃない」
(´・ω・`)「これはその夢にかけた時間や思い、加えてその為に得た技術が大きさや数の多さとなって現れる……」
(´・ω・`)「そして……これを飲み込めばその『時間』や『技術』が手に入るんだ」
僕は思わず自分の細い目を見開いた。
これを飲むだけで実質、他者を自分の血肉として得られるなんて、到底信じられない。
('A`)「それは……凄い……」
(´-ω・`)「……もちろんノーリスクじゃないけどね」
('A`)「……例えば?」
(´・ω・`)「その『夢』に対する思いの強さ……それも飲み込んだ人の分だけ大きくなる……」
(´・ω・`)「それだけ大きい、大きい思いを背負って『夢』が破れたら……その人はどうするだろうね?」
ξ-⊿゚)ξ「……」
('A`)「……死ぬ、かも」
(´・ω・`)「死ぬかもじゃない、死ぬのさ……色々な意味でね」
(´・ω・`)「ま、そんな人ばかりじゃないんだけど」
('A`)「皆が皆自分のために買っていくわけじゃないと?」
ξ゚⊿゚)ξ「才能ない人間のものでもね、他人の過ごした時間がついてくるの、夢のかけらは」
ξ゚⊿゚)ξ「そう言った……結果的には無為な時間を過ごしてしまった人間の時間がね」
ξ゚⊿゚)ξ「そういう人間の無為に過ごした時間を、物好きな奴が覗くために買う事もあるわけ」
(´・ω・`)「液体によって固められたものだから、また水か何かに浸けておけば言葉にまた戻っていく」
(´・ω・`)「まぁ、そう言ったモノを買い売りする、それが僕たちの仕事なわけさ」
('A`)「なるほど……」
(´・ω・`)「あまりマトモな商売じゃない事は重々自分でも承知しているんだが……」
(´・ω・`)「これがどうして、結構な勢いで買われていくんだ……売りに来る人も同じくらいいるしね」
(´・ω・`)「ま、やっていくうちに慣れるさ」
(´・ω・`)「早速明日からよろしくね、ドクオくん」
………
……
…
その日から僕の仕事は始まった。
ショボンさんやツンさんたちの話は冗談なんかじゃなかった事が、数日間でよくよく分かった。
本当に、吐きだされて行くのだ。
『夢』が。
思ったより次から次にやってくる人々の多さに少し圧倒されていたが、それも数日したら慣れてしまった。
ある人には紅茶を、ある人にはコーヒーを。
そしてもれなくあの薬品を入れる。
そして皆、呪詛のように自分の叶えきれなかった夢を吐き出し、夢の残滓を残していく。
殆どのものが数センチのそれはキラキラと輝いてはいたが、
その光に少し濁りが見えるのは気のせいだろうか。
僕はそれを洗い、磨き、飾る。
それを求めにやってくる人々へ売り払う。
(´・ω・`)「ははぁ、なるほど、T大に行かせたい」
(´・ω・`)「ではこのカケラはいかがでしょうか……15年モノですよ」
(´・ω・`)「学力も思いも中々強い人でしてね、このサイズと輝きは中々出てきません」
時折聞こえる値段は法外とも思える時もあるが、不思議と皆文句を言わずに買っていく。
そしてその金でまた夢を買い……そしてまた売り払う。店の見た目とは裏腹に大量の金が動いて一日が終わる。
外の看板を『OPEN』から『CLOSE』にひっくり返し、入り口の戸締まりをした僕は近くにあった椅子に座り込む。
今日も一日、中々に大変だった。
(´・ω・`)「じゃあ、後締め作業ヨロシクね」
そう言っていそいそとショボンさんは裏口から帰ってしまった。
子供の誕生日で、急いで帰ってやらなきゃとツンさんと話していたのが聞こえたので、そういう事なんだろう。
店には、僕とツンさんだけが残された。
('A`)「僕、ツンさんが言ってた意味がわかりました」
ξ゚⊿゚)ξ「え?」
('A`)「最初の面接の時に言ってたじゃないですか、『時間は有限なんだから』……って」
ξ゚⊿゚)ξ「うん、そうだったわね……」
('A`)「時間をかけるほどに熱中した夢を売り払う……その夢は二束三文で買い叩かれる」
('A`)「有限だった時間を費やして得られる者がそれって、悲しいですよね」
ξ゚⊿゚)ξ「でも、ある意味幸せだったとも言えない?」
ξ゚⊿゚)ξ「少なくとも有限な時間を自らの夢っていうものに使うことが出来たんだから」
ξ゚ー゚)ξ「君みたいに余計な面接で時間を取られた訳じゃないんだし」
('A`)「けど……なんか悲しいですよね」
('A`)「『夢を売る』だなんて、諦めきれない気持ちだって分かるけど……」
('A`)「それを思って必死にやってきたわけじゃないですか、思い出だってその時間に沢山乗ってるわけじゃないですか」
ξ゚⊿゚)ξ「けどね、それって残酷な事だと思わない?」
('A`)「残酷?」
ξ゚⊿゚)ξ「それだけ強い思いとか時間とか……そういうのを残したまま大人になって……時間が過ぎて……」
ξ゚⊿゚)ξ「そして叶えられないまま死ぬまで永遠に心の中で燻り続ける……」
ξ゚⊿゚)ξ「そんな悲しい思いをしたままいるより、売り払ってしまったほうが楽じゃない」
('A`)「……そんなもんですかね」
ξ゚⊿゚)ξ「そんなもんだと思うわよ、少なくとも私はね……」
………
……
…
『夢』
この一文字は様々なモノを背負いすぎていて、ただただ、途方もない大きなものに僕たちは飲み込まれている。
僕は多分、明日も、明後日もあの店で様々な夢を買い、売る。
ツンさんが言っていたように、これは他人を本当に救うのだろうか?
到底、僕には分からない。
そう言ったモノを僕らは果たして消化しきれているのだろうか?
到底、僕には分からない。
分からないことだらけだ。この世の中。
けれどやっぱり、世の中は憂鬱で溢れている。
それは結構な頻度で体感する羽目になるし、
『夢破れる』
なんていうのは案外身近だ。